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言葉の重み(エッセイ) 

真山 仁(まやま じん)小説家

著書:「ハゲタカ」「コラプティオ(直木賞候補)」「ベイジン」他


一部抜粋

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1989年1月7日、当時官房長官だった小渕恵三が、一枚の色紙を手にして宣言した。

 「新しい年号は、平成」

 それが騒動の始まりだった。

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サブデスクが ・・略・・

 「岐阜県武儀郡武儀町下之保字平成、いやこれで、へなりと読ませるようだな・・・」

 当時、私は関通信部員で平成地区は、持ち場に含まれていた。

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六軒の民家しかない平成地区は、静かでのどなか場所だった。

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 東京から大量に記者やテレビカメラがやって来たかと思うと、翌日には観光客が来た。空き地が駐車場となり、自販機が置かれる。特産物のシイタケに"平成"の名が躍る。そして、平成の道路標識盗難事件、選挙違反と、半年以上ほぼ毎日通い、厖大(ぼうだい)な原稿を書いた。

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 メディアがニュースを作ろうとする姿勢だ。凄惨(せいさん)な事件は怒りを増幅させ、不幸な事故は悲しみを煽る(あおる)。平成騒動の時は、「年号が地域を活性化させる」と、マスコミが勝手な理屈で騒動を後押しした。

 やがて町長が「町名を武儀町から平成町に変えるのではないか」という噂(うわさ)が流れ始めた。

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 町長から言質を取ろうと、各社必死で取材攻勢を掛けていた。スクープできたら、一面トップは間違いないからだ。

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 「平成町にするという噂がありますが」

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 「そうなんだ。そう考えている。」

 その瞬間、宴席はにわか会見場に変貌した。それから数日後、各社が同時に町名変更の記事を大々的に報じた。

 結局、武儀町は町名変更に至らず、2005年、平成の大合併の一つとして、関市に吸収される。

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 短い記者生活だったが、「マスコミの影響力は凄(すさ)まじい。それをどう使うのかを、現場の記者でも自覚すべきだ」と何度か痛感させられる体験をした。当時のデスクからは「原稿の影響力なんて気にするな」と言われたが、それはやはり誤りだと思う。マスコミは福音にも暴力にもなる。発信する記者に責任感がなければ、事実は誇張され歪(ひず)み、思わぬ悪影響が広がる。それを忘れてはならない。

 フィクションではあっても、小説も大なり小なり読者に影響を及ぼすものだ。

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私たちが情報を受け取るとき、そして伝えるとき

どれほど真剣に自分の発する言葉と向き合っているでしょうか?



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